こんにちは、サークル空理計画主催のはくしです。
空理計画は、ゲームマーケット2018にて、パズルカードゲーム「アリスアセンブル」を発表しました。
今回は、このゲームのデザインについて、以下の話題を軸にお話します。
まずは、 カード構成について
つぎに、 システムについて
さいごに、 アートについて
それでは、しばしお付き合いいただければと思います。
カード構成について
いきなりですが、まず本作の根底にある理念、セリーについてお話しさせてください。
これはじっさい、本作のカード構成について述べる上で避けては通れないことです。
セリーとは、即物的に表現するならば、「可能なすべての組み合わせ」のことです。
セリーに、組み合わせに用いる要素、およびその使用条件を与えると、具体的な形を持った組み合わせの集合が作り出されます。
すなわちセリーとは、ある程度の複雑さを持った要素を、一定数、可能性のもれなく生み出すことができる装置であると言えます。
実際、本作に含まれる32枚の人形カードの内容は、以下に述べる規則を持つセリーによって作られました。
5のセリー
本作において、人形カードは5種類の歯車を要素として持ちます。
ただし、歯車の個数は一種類につき1個か0個、つまり持つか持たないかのいずれかであるという制約があります。
実際には視認性などの観点から、一種類の歯車が左右一対描かれていますが、これはひとまず一個としてカウントします。
さてここでは、上のように5つの要素の背反する取捨選択からできる最も単純な形のセリーを、5のセリーと表現します。
5のセリーは、「有」と「無」を繰り返しを許して5つ並べる順列の組み合わせとして考えることができ、そのパターンは、
$2^{5} = 32$
通りとなります。
本作のカードの構成は、このパターンの集合から作られたものです。
さらに、こうして作られたシンボルの配列は、奇しくも5ビットの二進数として捉えることができます。
カードに振られた固有の番号は、この二進数値を十進法に直したものです。
この番号のおかげで、本作の人形カードは、すべてのカードが均等な可能性のもと同一平面上に配置されつつ、直線的な序列関係も併せ持つ、稀有なカードセットとなりました。
システムについて
次は、このゲームのシステムについてです。
これを説明するにあたって、まずはシステムの構築に便利な道具の一つである、次元転換について触れておきたいと思います。
次元転換は、あるアイデアにおける次元依存の要素を、そのまま他の次元に依存する形に置き換えるメソッドです。
それはたとえば、一次元の空間で行われるなにがしかを、二次元の空間で行う形に作り変えるようなこと、あるいはその逆、を指します。
ところで、新しいアイデアは、既存のアイデアを組み合わせることで生み出される、というのはよく知られた事実です。
次元転換は、アイデア同士を組み合わせる際に生じる齟齬を埋め合わせるための方法論であり、その性質上、対策的というよりも基本的なアイデアを生成するのに役立ちます。
二次元からの下降転換
本作では、二次元空間で行われるような配置パズルを、一次元の空間で行う形に変形することを試みました。
具体的には、ボードゲームをカードゲームに落とし込む、ということ、さらに言えばボードゲームとカードゲームの複合が狙いです。
これは、「5のセリー」からなるカードセットを観察するなかで得た発見から生まれたコンセプトです。
人形カードのシンボル(歯車)は、カードの端にある各種所定の座標に配置されています。
「5のセリー」のカードセットを試作する中で、このレイアウトのカードを少しづつずらして重ねると、シンボルが二次元的な配列をなすことに気が付きました。
この性質を利用することで、ボードゲームをそのままのかたちでカードゲームに落とし込むことができるのではないか、と考えたのです。
この発想をもとに、様々なボードゲームのアーキタイプがこのタイトルの基本システムとして試され、最終的には、プレイヤー各個の手元でパターンを組み上げるドラフトパズルが採用されました。
このゲームのシステムは、基本的にボードゲームのそれですが、いっぽうで、コンポーネントは完全にカードのみです。
その結果、シャッフルが容易である、ランダム配布がしやすい、コンパクトである、といった、カードという形態の持つ様々な恩恵を享受することができました。
アートについて
さいごに述べるのは、本作のアート、意匠についてです。
本作のアートの方向付けの決定には、ゲームというメディアの持つ興味深い性質である、再記譜可能性への考察が深く関与しています。
ゲームにおける再記譜可能性とは、ルールに手を加えることで、これを作り直したり、別の形にできる可能性のことです。
詳しく見ていきましょう。
まず「記譜」とは、ここでは「プログラム」を言い換えた語です。
これはかつて、プログラムに当てた和語として「算譜」というものがあった経緯に由来します。
またこれは、「遊び」のplayと「演奏」のplayから引き出した、「ルールブック」と「譜面」の対応付けから引っ張り出した語でもあります。
ところで、テーブルゲームはコンポーネントとルールからできていますが、上の定義から、再記譜可能性の高いゲームとは、同じコンポーネントから別の(有意義な)ゲームを生み出す可能性が高いゲームである、と言うことができます。
再記譜可能性は、それゆえルールでも、ゲーム自体でもなく、コンポーネントやその構成法に付属する性質です。
再記譜可能性の高いコンポーネントのデザインには、以下の2つの方向性があります。
一つには、意味をもたせる方向性。
意匠においては、象徴的な図像や擬人像など、
構成法においては、具体的な対象物の集合など。
いま一つには、意味をもたせない方向性。
意匠においては、抽象的な図像からなるもの、
構成法においては、単純な表記法を持つもの。
こうした方向性を明確にすることのメリットとして、意味をもたせる方向性はアイデアの発生に、意味をもたせない方向性は思考の補助に寄与する、ということが挙げられます。
本作では再記譜可能性を高める上で、意匠に意味をもたせ、構成法には意味を持たせない、複合の方向性を採りました。
本作においては、再記譜可能性の高さはそれ自体が達成目的の一つです。
具体的に言えば、本作のコンポーネント、構成から様々なゲームを生み出せること、すなわちその活動空間が潤沢であることです。
ゲームというかたちで生成理念セリーの可能性を示すこと、これは本作のみならず、私の制作するゲームの何点かで、継続的に試みていることでもあります。
役者の決定
さて、構成法についてはセリーの項で書いたので省略し、ここではアート、意匠について書きます。
意味を持つアートは、物語を生み出す可能性を持ちます。
そして物語は、ルールを誘発する可能性を持ちます。
これが、セリーから発したゲームに複合の方向性をもたせた理由です。
このゲームは、再記譜をアイデアの発生という側面から促す仕組みにすることを狙っています。
アイデアとは、すなわち連想であり、要素間の関係性によって活性化されるものです。
物語の手法として、キャラクターの造形を重視するというのは一つの確立したメソッドです。
それゆえ本作では、人格を有している、あるいは有していそうな、なにがしかを意匠として取り扱うことに決めました。
問題は、アートと構成法の親和性です。
「5のセリー」を用いて2次元のパズルゲームを実装するという方針と、うまく噛み合う設定を持つ「役者」を考なければいけません。
この試みは最終的に、「人格」(独立し、かつ他と関係を結ぶもの)の属性と「機械」(置換可能な機能の集積)の属性を併せ持つ、「自動人形」というモチーフに行き着く結果となりました。
モチーフが決まることでゲーム全体の設定が固まり、機械少女を組み立てるカードゲーム、アリスアセンブルが誕生する道具立てが整ったのです。
まとめ
長らくお付き合いいただきました。
まとめると、上にあげた3点は、それぞれが本作一連の流れのなかで、以下の役割を担うものでした。
- セリー: 根源的な理念、散布したい思想
- 次元転換: 生成の方法論、命を与えるもの
- 再記譜可能性: 繁栄の方法論、再構築の誘発
このリストは、上から下への一方的な時間軸の流れを持つと同時に、下から上への、存在意義の依存関係を持ちます。
具体的には、この作品が再構成による流動を求めるのは、セリーの効用をより多くの方法で伝えるため、ということです。
すなわち、これらは互いに強固に結びつきあったメソッドということです。
本記事の総括として挙げたリストからも見て取れるとおり、これらは本作を一連のプロジェクトとして解説する上では、いずれも省くことのできない要素でした。
この記事が、「アリスアセンブル」をより深く楽しむ助けとなれば幸いです。
ありがとうございました。